分離発注とは? メリット・デメリットをわかりやすく解説|コストと品質を両立する発注方式の特徴、向いているケースを紹介

住宅の新築や店舗の改装を考えていると、「分離発注」という言葉を目にすることがあります。これは、一括で業者に依頼するのではなく、自分でそれぞれの工事業者と個別に契約する方法です。
少しハードルが高そうに感じるかもしれませんが、きちんと理解すればコストを抑えつつ、理想の仕上がりを目指すことも可能です。
この記事では、分離発注の仕組みやメリット、注意点について、初めての人にもわかりやすく説明していきます。
目次
分離発注ってどんな仕組み?

分離発注とは、家やお店をつくるときに建設会社やハウスメーカーを通さずに、それぞれの工事業者と直接契約する方法です。
もともとは公共工事で使われていた手法で、契約内容や費用をはっきりさせるために広まりました。最近では、注文住宅や小さなお店の改装でも使われるケースが増えています。
この方法では、施主(建て主)が元請けのような立場になり、契約・支払い・スケジュール管理を自分で進める必要があります。
一括発注とどう違うの?
一括発注では、住宅会社などが設計・施工・監理をまとめて担当するため、施主は1社とだけ契約すれば済みます。
一方、分離発注では「設計」と「工事」をそれぞれ別の業者と契約するため、費用の内訳が細かく分かれます。
そのおかげで、材料費・人件費・管理費などの内容がはっきりし、ムダな中間コストを減らしやすくなります。ただし、契約が増える分だけ書類の量も多くなるため、見積書や図面の管理に注意が必要です。
分離発注の工事の流れ

分離発注では、施主自身が中心となって工事を進めます。ここでは、基本的な流れを4つのステップに分けて説明します。
① 設計監理者を決めて、プランと図面をつくる
分離発注を進めるうえで、最初に行うのが「設計監理者」の選定です。
設計監理者とは建築士などの専門家のことで、建物のプランを考えたり図面を作成したりします。さらに、工事が図面通りに進んでいるか、現場で確認する「監理」も重要な役割です。
分離発注では施主が複数の業者と個別に契約を結ぶため、全体をまとめる存在として設計監理者が欠かせません。
まずは、自分の希望や予算をもとにプランを相談し、間取りや使いたい素材などを整理していきましょう。ここで完成した図面は、各工事業者から見積もりを取る際の基準になります。
内容があいまいだと金額にもズレが出るため、できるだけ具体的に仕上げておくことが大切です。
また、分離発注に慣れた設計監理者であれば、業者選びや工事中の調整もスムーズに進められるでしょう。
② 専門業者に見積もりを依頼し、工事契約を結ぶ
図面が完成したら、各工事の内容に応じて専門業者から見積もりを取りましょう。
たとえば、電気・水道・内装・外構など、工種ごとに複数の業者へ依頼を出すことになります。このとき、金額だけでなく対応の丁寧さや過去の実績なども比較すると判断しやすくなります。
契約を結ぶ前には、見積もりの内容をよく確認し、不明点があればそのままにせず設計監理者や専門家に相談してください。
工事ごとに個別の契約書を交わす必要があるため、手続きに戸惑う場面もあるかもしれません。しかし、ここを丁寧に進めることで、後のトラブルを防ぎやすくなります。
納得のいく条件で契約を結ぶことが、分離発注の成功につながるでしょう。
③ 工程表を作成し、進捗・安全・品質をチェック
契約が済んだら、工事のスケジュールを組み立てていきます。
まずは、電気・内装・外構など、各工事の開始日と終了日を整理し、工程表を作成します。この表は、全体の流れを把握するうえで重要な役割を持っています。
工事が始まったあとは、設計監理者と連携しながら現場の進み具合を確認していきましょう。予定通りに進んでいるか、図面通りに工事が行われているかをチェックする必要があります。
また、安全対策や品質の管理も見逃せません。細かな調整が必要になることもあるため、現場とのやりとりはこまめに行うと安心です。
こうしたチェックを重ねることで、トラブルを未然に防ぐことができます。最終的な仕上がりにも大きく影響する部分なので、気を抜かずに対応しましょう。
④ 各工種の完了ごとに検査・支払いを行い、最終検査後に引き渡し
工事が一区切りつくごとに、設計監理者と一緒に仕上がりを確認します。問題がなければ、その時点でその工事にかかる代金を支払います。
このように、工事の進行にあわせて検査と支払いを繰り返していくのが分離発注の特徴です。
すべての工事が完了したあとは、建物全体を対象とした最終検査を行います。安全性や仕上がりの状態をしっかり確認し、問題がなければ引き渡しとなります。
ここで不備が見つかった場合は、すぐに対応できるよう各業者との連絡体制を整えておきましょう。
また、支払いのタイミングや金額が複数に分かれるため、事前にスケジュールを管理しておくことが重要です。引き渡しが無事に終われば、すべての工程が完了したことになります。
分離発注のメリットは?

分離発注には、コストや計画の自由度において多くの利点があります。
ここでは代表的な4つのメリットについて紹介します。
中間マージンをカットできる
ハウスメーカーや工務店を通すと、建築費のうち約2割が元請けの手数料になると言われています。分離発注ではその手数料が不要になるため、同じ内容でも予算を大きく抑えられるケースがあります。
たとえば、浮いた分をキッチンや断熱材のグレードアップに使ったり、ローンの借入額を少なくしたりと、お金の使い方に幅が出てきます。
このように、資金の使い方を自分でコントロールしやすくなる点は、大きな魅力でしょう。
見積もりの内訳が見えやすい
各工事をそれぞれの専門業者に直接発注すると、材料費・人件費・運搬費などが細かく書かれた見積書が届きます。複数の業者から見積もりを取れば、内容の比較も簡単です。
その結果、費用が適正かどうかを判断しやすくなり、必要に応じて交渉も行いやすくなります。
たとえば「照明器具だけ自分で用意する」「断熱材の種類を変えてコストを調整する」といった工夫もしやすくなるでしょう。
専門業者と直接やりとりできる
分離発注では、実際に工事を担当する専門業者と直接話ができるのが大きな特徴です。
「この棚の位置をもう少し高くしたい」「床材を掃除しやすいものに変えたい」といった細かい希望も、その場で伝えやすくなります。
間に別の会社が入らないことで伝達ミスを防ぎやすく、完成後に「イメージと違った」と感じることも減るはずです。
さらに、どの業者がどの作業をしたのかが分かるため、引き渡し後の修理やメンテナンスもスムーズにつながります。
維持費まで見据えたコスト調整ができる
建物には、建てたあとのランニングコストもかかります。これを「ライフサイクルコスト(LCC)」と呼び、電気代や設備の修理費なども含まれます。
分離発注では、設備の専門業者と直接相談できるため、「少し高くても省エネ性能の良いものを選ぶ」といった判断がしやすくなります。
将来を見越した選択をすることで、長い目で見たときのコストを抑えることにもつながるでしょう。
分離発注のデメリットは?

分離発注にはメリットが多い一方で、気をつけておくべき注意点もあります。
ここでは、代表的なデメリットを4つの観点から紹介します。
管理業務の負荷が大きい
分離発注では、工事の進み具合や安全、品質のチェックを施主自身が行う必要があります。
複数の業者のスケジュールを調整するのは簡単ではなく、天気の影響や資材の遅れがあれば、すぐに計画を立て直さなければなりません。
仕事や家庭の用事と並行して進める場合、電話やメールのやりとりが予想以上に増えることもあるでしょう。
そのため、事前に「進捗共有のためのオンラインツール」や「設計監理者が現場を確認する日程」などを決めておくと、負担を減らしやすくなります。
保険や融資の対応が複雑になる
一括発注の場合は、自動的に加入される工事の保険(瑕疵担保保険)がありますが、分離発注では施主が自分で申し込む必要があります。
また、金融機関によっては「完成保証」や「履行保証」などの書類を求められることがあり、準備に手間がかかる場合もあります。
こうした手続きをスムーズに進めるためには、工事が始まる前に保険会社や銀行と必要書類の内容を確認し、設計監理者にも協力してもらえる体制を整えておくことが大切です。
責任の分け方が複雑になりやすい
工事を業者ごとに分けて契約するため、トラブルが起きたときに「誰の責任か」をはっきりさせる必要があります。
たとえば雨漏りがあった場合「屋根工事」「防水シート」「窓の取り付け」など、どこが原因なのかによって担当が変わる可能性があります。
そのため、契約書には「どこまでが誰の責任か」「どんな保証があるか」「トラブル時の対応方法」などを明記しておくことが重要です。設計監理者が中立の立場で判断できるようにしておくと安心でしょう。
工期の遅れや費用の増加につながる可能性がある
建築工事では、各業者の作業が密接につながっており、どこかで遅れが出ると他の工事にも影響が出やすくなります。
たとえば1社の遅れが連鎖し、全体のスケジュールが延びてしまうと、仮設トイレや足場などの追加費用がかかることもあります。
こうしたリスクを減らすには、最初から「最短スケジュール」で考えず、天候や部材の遅れを想定した余裕日(バッファ)を入れて計画を立てておくことが大切です。
また、現場と毎週確認を行い、状況に合わせて工程表を更新することも効果的でしょう。
私にも合う? 向く・向かないケースと成功のコツ

分離発注は便利な方法ですが、すべての人や建築計画に合うとは限りません。
ここでは、向いているケース・向かないケース、そしてうまく進めるためのポイントを紹介します。
分離発注が向いているケース
分離発注は、家づくりを自分のペースで進めたい人や、細かい部分にこだわりたい人に向いています。
とくに次のような条件がそろっていれば、コストと自由度のバランスを活かしやすくなります。
■ 使いたい素材やデザインに強い希望があり、予算もなるべく抑えたい住宅や小規模なお店を建てる
■ 平日でも現場に足を運べる、または信頼できる設計監理者と一緒に計画を進められる
■ 工事期間にある程度の余裕があり、途中での変更や調整にも柔軟に対応できる
こうした環境が整っていれば、専門業者との連携もしやすくなり、分離発注のメリットを十分に活かせるでしょう。
分離発注が向かないケース
一方で、スピード重視や管理の手間をかけたくない場合は、分離発注が不向きなこともあります。次のような条件に当てはまるなら、一括発注の方が安心できるかもしれません。
■ 工事の規模が大きい、または納期が厳しく、変更の余地がない
■ 建築の知識がほとんどなく、進行管理に手が回らない
■ 金融機関から「完成保証」の提出を求められており、その対応に負担を感じる
こういったケースでは、すべてを一括で任せられる体制の方がトラブルを避けやすく、精神的にも楽になるはずです。
分離発注を成功させるためのコツ
分離発注で後悔しないためには、最初の準備と進行中の管理がとても重要です。
とくに初めて挑戦する場合は、次のポイントを意識すると安心です。
■ 設計監理者やCM(コンストラクション・マネジメント)方式を早めに取り入れて、現場の調整を任せられる体制を整える
■ 工程や品質、安全に関するチェックリストをクラウドで共有し、情報の行き違いを防ぐ
■ 瑕疵担保保険や完成保証、支払保証の内容を事前に確認し、必要書類をあらかじめそろえておく
■ トラブルや業者変更に備えて、予備の業者や追加の予算も準備しておく
これらの準備をしっかりしておけば、不安を減らしながら計画を進めることができます。
分離発注が初めてでも、工夫次第で満足度の高い建築を実現できるでしょう。
さいごに
分離発注には、費用の内訳が見えやすく、こだわった内容で工事を進められるという大きなメリットがあります。その一方で、施主自身が全体の管理を担う必要があり、手間や判断の負担も大きくなりがちです。
ただし、メリットとデメリットをしっかり理解し、プロに協力してもらえる体制を早めにつくっておけば、大きな失敗は防ぐことができます。
当社では、分離発注に対応した内装工事も行っています。
設計段階からのご相談も受け付けておりますので「何から始めればいいかわからない」という方も、どうぞお気軽にお問い合わせください。

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